クラウドコンピューティングは、いまや企業のIT活用において欠かせない存在です。総務省の「令和6年通信利用動向調査」によると、クラウドサービスを利用している企業の割合は80.6%に達しており、年々増加傾向にあります。一方で「クラウドという言葉は知っているが、具体的な仕組みや種類の違いがわからない」という方も少なくありません。
本記事では、クラウドコンピューティングの基本的な仕組みから、サービスモデルやデプロイモデルの違い、メリット・デメリット、企業が導入する際のポイントまで、身近な具体例を交えてわかりやすく解説します。 クラウドの導入を検討する際の参考にしてください。
クラウドコンピューティングとは
クラウドコンピューティングとは、サーバーやストレージ、データベース、ソフトウェアといったITリソースを、インターネット経由で利用する仕組みです。従来のオンプレミス(自社設置型)環境では、企業が自らハードウェアやソフトウェアを購入・管理する必要がありましたが、クラウドコンピューティングでは、これらのITリソースをサービスとして必要な分だけ利用し、使った分だけ料金を支払う形態が基本となります。
「クラウド(雲)」という名称は、インターネットをネットワーク図で雲の記号で表す慣習に由来します。ユーザーから見ると、実際の処理をおこなうサーバーやストレージの物理的な所在を意識することなく、インターネットを通じてサービスを利用できる点が大きな特徴です。
クラウドコンピューティングは、すでに多くの人が日常的に利用しています。身近な例としては以下のようなものがあります。
- GmailやOutlookなどのWebメール
- Google DriveやDropboxなどのクラウドストレージ
- Microsoft 365やGoogle Workspaceなどのビジネスツール
- NetflixやSpotifyなどの動画・音楽配信サービス
これらはすべて、インターネット経由でサービス提供者のサーバー上にあるソフトウェアやデータを利用するクラウドコンピューティングの一形態です。
クラウドコンピューティングのサービスモデル
クラウドコンピューティングは、提供されるサービスの範囲によって大きく3つのモデルに分類されます。自社の用途や技術力に応じて適切なモデルを選択することが、クラウド活用の第一歩です。ここでは、各サービスモデルの特徴と使い分けの基準を解説します。
- SaaS(Software as a Service)
- PaaS(Platform as a Service)
- IaaS(Infrastructure as a Service)
- 3つのサービスモデルの使い分け
SaaS(Software as a Service)
SaaSは、完成したソフトウェアをインターネット経由で利用するサービスモデルです。ユーザーはソフトウェアのインストールや管理をおこなう必要がなく、Webブラウザやアプリからすぐに利用を開始できるため、ITに詳しくない従業員が多い企業でも手軽に導入できます。
代表的なSaaSとしては、GmailやMicrosoft 365などのメール・オフィスツール、SalesforceなどのCRM(顧客管理)、SlackやZoomなどのコミュニケーションツールがあります。これらは3つのサービスモデルの中で最もユーザーに身近な存在です。
SaaSの特徴は、ソフトウェアの保守・アップデートをサービス提供者側がおこなう点にあります。ユーザーはバージョン管理やセキュリティパッチの適用を意識する必要がなく、常に最新の状態で利用可能です。
PaaS(Platform as a Service)
PaaSは、アプリケーションを開発・実行するためのプラットフォームをインターネット経由で提供するサービスモデルです。OSやミドルウェア、データベース、開発ツールなどがあらかじめ用意されているため、開発者はインフラ環境の構築や管理に時間を費やすことなく、アプリケーション開発に集中できます。
代表的なPaaSには、AWS Elastic Beanstalk、Google App Engine、Microsoft Azure App Serviceなどがあります。開発環境のセットアップが不要なため、新しいサービスの開発スピードを大幅に向上させることが可能です。
PaaSは主にソフトウェア開発者やエンジニアが利用するサービスモデルであり、一般のビジネスユーザーが直接操作する場面は限られます。
IaaS(Infrastructure as a Service)
IaaSは、サーバー、ストレージ、ネットワークといったITインフラをインターネット経由で提供するサービスモデルです。3つのサービスモデルの中で最も自由度が高く、OS、ミドルウェア、アプリケーションの選定から構成まで、利用者が自らカスタマイズできる点が最大の特徴です。
代表的なIaaSには、Amazon Web Services(AWS)のEC2、Google Compute Engine、Microsoft AzureのVirtual Machinesなどがあります。仮想サーバーの性能や台数を必要に応じて柔軟に変更できるため、急なアクセス増加にも対応可能です。
一方で、IaaSはOSやミドルウェアの管理・運用をユーザー側でおこなう必要があるため、一定のITスキルと運用体制が求められます。
3つのサービスモデルの使い分け
SaaS・PaaS・IaaSの3つのサービスモデルは、サービス提供者とユーザーの管理範囲が異なります。SaaSはアプリケーションまで含めてすべてを提供者が管理する「すぐ使える」モデル、PaaSは開発基盤までを提供者が管理する「すぐ作れる」モデル、IaaSはインフラのみを提供する「自由に構築できる」モデルと整理できます。
選定の基準としては、「既存のソフトウェアをそのまま使いたい場合はSaaS」「自社独自のアプリケーションを開発したい場合はPaaS」「インフラから自由に設計したい場合はIaaS」という判断が基本です。
実際には、一つの企業が複数のサービスモデルを組み合わせて利用するケースも多く、業務の種類や要件に応じた柔軟な使い分けが求められます。
クラウドコンピューティングのデプロイモデル
クラウドコンピューティングには、サービスモデルとは別に「誰がどのように利用するか」を定義するデプロイモデル(導入形態)の分類があります。自社のセキュリティ要件やコスト、運用体制に応じた適切な形態を選択することが重要です。ここでは、代表的な3つのデプロイモデルを解説します。
- パブリッククラウド
- プライベートクラウド
- ハイブリッドクラウド
パブリッククラウド
パブリッククラウドは、クラウドサービス提供者が構築・運用するインフラを、不特定多数の企業や個人が共有して利用する形態です。AWS、Microsoft Azure、Google Cloudなどの大手プロバイダーが代表的であり、初期投資が不要で従量課金制のため、スモールスタートから利用できる手軽さが最大の利点となります。
日本のパブリッククラウドサービス市場は急速に拡大しており、総務省の令和6年版情報通信白書によると、2023年の市場規模は3兆1,355億円(前年比25.8%増)に達しています。とくにAWS、Azure、Google Cloudの大手3社の利用率が際立っている状況です。
パブリッククラウドはインフラの運用・保守をプロバイダーが担うため、自社での管理負担が少なく、多くの企業にとって最初に検討すべきデプロイモデルといえます。
プライベートクラウド
プライベートクラウドは、特定の組織だけが専有して利用するクラウド環境です。自社専用のインフラを構築・運用するため、セキュリティポリシーやネットワーク構成を細かく制御でき、金融機関や医療機関など機密性の高い情報を扱う組織に適した形態です。
プライベートクラウドには、自社のデータセンター内に構築する「オンプレミス型」と、サービス提供者のデータセンター内に専用環境を構築する「ホスティング型」があります。いずれもパブリッククラウドに比べてカスタマイズの自由度が高い反面、構築・運用にかかるコストと工数が大きくなる点に留意が必要です。
法規制やコンプライアンス要件によりデータの保管場所やアクセス制御に厳格な基準が求められる場合は、プライベートクラウドが有力な選択肢となります。
ハイブリッドクラウド
ハイブリッドクラウドは、パブリッククラウドとプライベートクラウド(またはオンプレミス環境)を組み合わせて利用する形態です。機密性の高いデータはプライベートクラウドやオンプレミスで管理し、一般的な業務処理やWebサービスの提供にはパブリッククラウドを活用するといった使い分けが可能です。
ハイブリッドクラウドの利点は、セキュリティとコスト効率のバランスを最適化できる点にあります。繁忙期にはパブリッククラウドのリソースを一時的に拡張し、閑散期には縮小するといった柔軟な運用も実現できます。
ただし、複数の環境を連携させるためのネットワーク設計やデータ連携の仕組みが必要となるため、運用の複雑さが増す点は考慮しておく必要があります。
クラウドコンピューティングのメリット
クラウドコンピューティングが急速に普及している背景には、従来のオンプレミス環境では実現しにくかった多くのメリットがあります。ここでは、企業がクラウドを導入することで得られる4つの主要なメリットを解説します。
- 初期費用を抑えて従量課金で利用できる
- 必要に応じてリソースを柔軟に拡張・縮小できる
- 場所やデバイスを問わずアクセスできる
- 導入スピードが速くすぐに利用を開始できる
初期費用を抑えて従量課金で利用できる
クラウドコンピューティングの最大のメリットの一つは、高額なハードウェアの購入やデータセンターの構築が不要な点です。オンプレミス環境では数百万円〜数千万円の初期投資が必要となるケースも多い一方、クラウドでは月額または従量課金制で利用できるため、初期費用を大幅に抑えてITインフラを整備できます。
従量課金制は、使用したリソース分だけ料金が発生する仕組みであるため、無駄なコストが発生しにくい構造です。とくにスタートアップや中小企業にとっては、資金効率を高めながらIT環境を整備できることが大きなメリットとなります。
ハードウェアの保守費用やOSのライセンス更新費用といったランニングコストも、サービス提供者側が負担するため、ITコスト全体の可視化と最適化にもつながります。
必要に応じてリソースを柔軟に拡張・縮小できる
クラウドコンピューティングでは、サーバーの処理能力やストレージ容量を、ビジネスの需要に応じて柔軟に拡張・縮小できます。この特性は「スケーラビリティ」と呼ばれ、ECサイトのセール時期やキャンペーン期間にアクセスが急増した場合でも、迅速にリソースを追加して対応することが可能です。
オンプレミス環境では、ピーク時に合わせたスペックのサーバーをあらかじめ用意しておく必要があり、通常時にはリソースが過剰となるケースが避けられません。クラウドであれば、需要が落ち着いた段階でリソースを縮小することで、コストの最適化も同時に実現できます。
リソースの増減は、管理コンソールからの操作や自動スケーリング設定により、数分単位で反映される点もクラウドならではの強みです。
場所やデバイスを問わずアクセスできる
クラウドコンピューティングのサービスは、インターネット環境があれば場所やデバイスを問わずアクセスできます。総務省の「令和5年通信利用動向調査」においても、企業がクラウドを利用する理由として「場所、機器を選ばずに利用できるから」が上位に挙げられており、テレワークやハイブリッドワークの普及を支える基盤としてクラウドが機能しています。
オフィス、自宅、外出先のいずれからでも同じデータやアプリケーションにアクセスできるため、働き方の柔軟性が大幅に向上します。複数の拠点をもつ企業にとっては、拠点間のデータ共有や共同作業の効率化にも直結する便利なサービスといえるでしょう。
災害やパンデミックなどの緊急時においても、事業継続性(BCP)を確保する手段としてクラウドの活用が注目されています。
導入スピードが速くすぐに利用を開始できる
クラウドコンピューティングでは、ハードウェアの調達や設置、ネットワークの構築といった物理的な準備が不要なため、サービスの契約から利用開始までの期間が非常に短い特徴があります。オンプレミス環境の構築には数週間〜数か月を要することが一般的ですが、クラウドであれば管理コンソールから数クリックで仮想サーバーを起動し、即座に利用を開始できます。
このスピード感は、新規事業の立ち上げやサービスの早期市場投入が求められる場面でとくに大きな価値を発揮します。開発環境の構築も短時間で完了するため、エンジニアが開発作業に集中しやすい環境が整います。
試験的な導入(PoC)や短期プロジェクトにおいても、必要な期間だけ利用して終了できる点が、クラウドの導入ハードルを下げています。
クラウドコンピューティングのデメリット・注意点
クラウドコンピューティングには多くのメリットがある一方で、導入前に理解しておくべきデメリットや注意点も存在します。ここでは、企業がクラウドを導入する際にとくに留意すべき3つのポイントを解説します。
- インターネット環境に依存する
- カスタマイズの自由度がオンプレミスより制限される場合がある
- セキュリティやデータ管理の責任範囲を正しく理解する必要がある
インターネット環境に依存する
クラウドコンピューティングは、すべてのサービスがインターネットを介して提供されるため、ネットワーク環境の品質によってサービスが利用できなくなるリスクがあります。たとえば、インターネット接続が不安定な環境や、回線速度が十分でない状況では、操作の遅延やデータへのアクセス障害が発生するリスクがあります。
また、クラウドサービス提供者側のシステム障害により、サービスが一時的に利用できなくなる可能性もゼロではありません。過去には大手クラウドプロバイダーで大規模な障害が発生し、多数の企業に影響が及んだ事例も報告されています。
こうしたリスクに備えるためには、安定した回線の確保、冗長化された接続経路の設計、そして万が一の障害時に対応するBCP(事業継続計画)の策定が重要です。
カスタマイズの自由度がオンプレミスより制限される場合がある
クラウドサービス、とくにSaaSやPaaSでは、サービス提供者があらかじめ用意した機能や設定の範囲内で利用することが前提であるため、自社の業務フローに合わせた細かなカスタマイズや、独自の要件に基づくシステム構成が難しいケースがあります。
オンプレミス環境であれば、ハードウェアの選定からOS、ミドルウェア、アプリケーションの構成まで完全に自社の裁量で決定できます。クラウドでは、こうした自由度とコスト・運用負担の軽減がトレードオフの関係にある点を理解しておく必要があります。
IaaSを選択すればカスタマイズの自由度は高まりますが、その分運用・管理の負担も増えるため、自社の技術力と要件に応じたサービスモデルの選定が重要となります。
セキュリティやデータ管理の責任範囲を正しく理解する必要がある
クラウドサービスにおいては、セキュリティやデータ管理の責任が、サービス提供者と利用者の間で分担される「責任共有モデル」が採用されています。サービス提供者がインフラやプラットフォームのセキュリティを担保する一方で、データの管理、アクセス権限の設定、利用者側のアカウント管理などはユーザー自身の責任範囲です。
この責任範囲を正しく理解せずに「クラウドだからセキュリティは万全」と考えてしまうと、設定ミスやアクセス権限の不備によるデータ漏洩などのインシデントにつながるリスクがあります。
クラウド導入に際しては、サービスごとの責任範囲を確認したうえで、自社側のセキュリティ対策やデータガバナンスの方針を明確に定めることが不可欠です。
企業がクラウドコンピューティングを導入する際のポイント
クラウドコンピューティングのメリットを最大化し、デメリットのリスクを最小化するためには、導入前の計画と適切なパートナー選定が重要です。ここでは、企業がクラウドを導入する際に押さえるべき3つのポイントを解説します。
- 自社の目的に合ったサービスモデルとデプロイモデルを選定する
- 既存システムとの連携や移行計画を事前に策定する
- クラウド導入の知見がある開発パートナーに相談する
自社の目的に合ったサービスモデルとデプロイモデルを選定する
クラウド導入の第一歩は、「何のためにクラウドを利用するのか」という目的を明確にし、その目的に適したサービスモデルとデプロイモデルを選定することです。業務アプリケーションを手軽に利用したいならSaaS、自社独自のシステムを開発するならPaaSやIaaS、データの機密性が高い場合はプライベートクラウドやハイブリッドクラウドというように、要件に応じた組み合わせを検討する必要があります。
目的が不明確なまま「クラウドが流行っているから」という理由だけで導入すると、コストに見合った効果を得られない可能性があります。現行のIT環境の課題を整理し、クラウドによって何を改善・実現したいかを具体化することが重要です。
複数のクラウドサービスを比較検討し、自社の要件に対する適合度、コスト、サポート体制を総合的に評価したうえで選定を進めることを推奨します。
既存システムとの連携や移行計画を事前に策定する
クラウドへの移行にあたっては、既存のオンプレミスシステムや他のクラウドサービスとの連携・統合をどのように実現するかを事前に計画しておくことが不可欠です。データの移行方法、API連携の設計、移行期間中の並行運用体制、移行後の動作検証など、具体的な移行計画を策定しないまま進めると、データの欠損やシステムの停止といった重大なトラブルを招きかねません。
とくに、基幹業務システムのクラウド移行は影響範囲が大きいため、段階的な移行(フェーズドアプローチ)を採用し、リスクを最小化しながら進めることが有効です。
移行計画には、コストの試算、スケジュール、各フェーズのマイルストーン、ロールバック(元の環境への切り戻し)手順も含めておくことで、不測の事態にも対応できます。
クラウド導入の知見がある開発パートナーに相談する
クラウドコンピューティングのサービスモデルやプロバイダーは多岐にわたり、自社だけで最適な選定と導入を進めることは容易ではありません。クラウドの設計・構築・運用に関する実績と知見をもつ開発パートナーに相談することで、自社の要件に適したクラウド構成の提案を受けられるだけでなく、移行時のリスク軽減や導入後の運用支援まで一貫したサポートを受けることが可能です。
開発パートナーを選定する際は、対象となるクラウドプロバイダー(AWS、Azure、Google Cloudなど)の認定資格や導入実績の有無を確認することが有効な判断基準となります。
自社のIT部門のリソースが限られている場合はとくに、クラウド導入の専門性をもつ外部パートナーの活用が、プロジェクト成功の鍵となります。
まとめ
クラウドコンピューティングは、ITリソースをインターネット経由で利用する仕組みであり、SaaS・PaaS・IaaSのサービスモデルと、パブリック・プライベート・ハイブリッドのデプロイモデルを組み合わせることで、企業の多様なニーズに対応できます。初期費用の抑制、柔軟なスケーラビリティ、場所を問わないアクセス、迅速な導入といったメリットがある一方で、インターネット依存、カスタマイズの制約、セキュリティの責任分担といった注意点も把握しておく必要があります。
クラウドの導入を成功させるためには、自社の目的に合ったモデルの選定、既存システムとの連携を含む移行計画の策定、そして専門知見をもつ開発パートナーとの連携が重要です。
本記事で紹介した基礎知識を踏まえ、自社のIT環境に最適なクラウド活用の方針を検討していきましょう。
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