本記事では、フィジカルAIの基本を押さえたうえで、業界別の活用事例、国内企業の取り組み、実用化の傾向、導入時のポイントまで解説します。自社での活用を検討する際の参考にしてください。
フィジカルAIとは
フィジカルAIとは、現実世界をセンサーなどで認識し、AIが判断したうえでロボットなどを自律的に動かす技術です。生成AIが文章や画像などをデジタル空間で生成するのに対し、フィジカルAIは現実の空間で実際に行動する点が大きな違いです。
生成AIや従来型ロボットとの違いは、認識と判断の柔軟さにあります。生成AIは主にデジタル空間で情報を生成するのに対し、フィジカルAIは現実の環境を認識して行動します。
従来型ロボットも物理的な作業をおこないますが、あらかじめ決められた動作を繰り返すものが中心です。これに対しフィジカルAIは、位置のズレや周囲の状況などに応じて判断や動作を変えられる点が特徴です。
フィジカルAIの活用事例10選
フィジカルAIは、製造・物流・建設・医療・モビリティなど、実際に活用や実証が進んでいる業界ごとに事例が広がっています。単に企業名を並べるのではなく、何をAIに判断させ、どの作業を自動化しているのかが分かるように紹介します。
- 製造業|組立・配線・検査を自律化する事例
- 物流・倉庫|ピッキングや搬送を自動化する事例
- 建設・インフラ|点検や危険作業を自動化する事例
- 医療・介護|介助やリハビリを支援する事例
- 自動運転・モビリティ|周囲を判断して走行する事例
製造業|組立・配線・検査を自律化する事例
製造業では、部品の位置や状態を認識しながら作業するフィジカルAIの実用化が進んでいます。ファナックはNVIDIAとの協業のもと、コンベヤー上を動く部品を追いかけながらねじを締めるロボットや、2本のアームで柔らかいケーブルを配線するロボットを公開しており、従来は自動化が難しいとされてきた不定形な作業への適用範囲を広げています。
また、電子機器メーカーのFoxconnは、NVIDIA Omniverseを基盤としたデジタルツイン基盤「FODT」を活用し、工場のレイアウト設計やAGVの経路最適化、ロボットの動作検証を仮想空間で先行しておこなう仕組みです。台湾からメキシコへ生産ラインを移行する際にも、標準化されたデジタルツインの資産を使って迅速に複製できる点が特徴です。
出典:ロボット新技術:オープンプラットフォームとフィジカルAI|ファナック、Foxconn、デジタルツインを活用してフィジカルAI対応スマートファクトリーを開発|NVIDIA
物流・倉庫|ピッキングや搬送を自動化する事例
物流では、AMRやロボットアームにAIを組み合わせ、荷物の認識・ピッキング・搬送を自律化する取り組みが進んでいます。荷物の形状や位置を認識してつかみ方を変えたり、周囲を判断しながら移動したりする用途が代表例です。
自動車電装部品メーカーの松田電機工業所では、MujinのフィジカルAI技術を搭載したロボット2台を導入し、サイズや形状がばらばらな混載通い箱の入荷・入庫工程を自動化しました。また、自動車部品メーカーの三五は、MujinのティーチレスなピッキングロボットとAGV、倉庫管理システムを組み合わせた工場内物流の構造改革により、日本物流大賞を受賞しています。物流倉庫は環境を一定に保ちやすいため、フィジカルAIを実装しやすい分野のひとつです。
出典:MujinOS搭載ロボット導入事例、フィジカルAI技術を松田電機工業所の入荷・入庫工程に活用|ロボスタ
建設・インフラ|点検や危険作業を自動化する事例
建設やインフラでは、人が立ち入りにくい場所でロボットやドローンを動かす用途が増えています。橋梁や設備の点検、高所作業、災害現場での情報収集などが代表例です。
周囲の状況を認識しながら移動できるフィジカルAIを使うことで、人による危険作業を減らせる可能性があります。ただし、屋外は天候や照明条件の変化が大きいため、工場内の設備と比べると実用化までの難易度は高めです。
医療・介護|介助やリハビリを支援する事例
医療・介護分野では、人の動きをセンサーで認識し、必要な力や動作を調整する技術が使われています。CYBERDYNEの装着型ロボット「HAL」は、身体を動かそうとする際に生じる微弱な生体電位信号を読み取り、利用者の意思に合わせて動作をアシストする仕組みで、日本・米国・欧州で医療機器承認を取得し、国内外の医療機関で導入されています。
利用者ごとに身体の状態が異なるため、決められた動きを繰り返すだけでなく、状況に合わせて制御できるフィジカルAIとの相性がよい分野です。
自動運転・モビリティ|周囲を判断して走行する事例
自動運転もフィジカルAIの代表的な活用分野です。カメラやLiDARなどから周囲の車両・歩行者・道路状況を認識し、AIが進行方向や速度を判断します。
道路は工場や倉庫よりも環境変化が大きいため、高度な認識能力と安全設計が欠かせません。実用化が進む一方で、フィジカルAIのなかでも難易度の高い分野のひとつです。
国内企業でもフィジカルAIの開発・実証が進んでいる
海外事例だけでなく、日本企業でもフィジカルAIの`研究開発や実証が活発になっています。
- ソフトバンク・安川電機の取り組み
- 日立製作所・ファナック・Mujinの取り組み
ソフトバンク・安川電機の取り組み
ソフトバンクと安川電機は、フィジカルAIの社会実装に向けて協業しています。安川電機の自律ロボット「MOTOMAN NEXT」と、ソフトバンクの「AIデータセンター GPUクラウド」を組み合わせ、ワイヤーハーネスのような柔らかい物体のハンドリングを安定しておこなえることを実証しました。
両社はオフィス環境でのユースケース公開を皮切りに、工場に限らない場面でのフィジカルAI活用を目指す方針です。
出典:安川電機とソフトバンク フィジカルAIを活用し柔軟な物体のハンドリングシステムを実証|安川電機
日立製作所・ファナック・Mujinの取り組み
日立製作所は、次世代ソリューション群「HMAX」の一環として、現場で得られる動作データを継続的に学習しながら作業の速度や品質を高めるフィジカルAI技術を開発しました。視覚や力触覚のセンサー情報をもとに、ワイヤーハーネスの組み付けのような繊細な作業にも対応でき、製造や設備保守、ロジスティクスなど幅広い現場への導入を想定しています。
ファナックはNVIDIAとの協業でオープンなロボットプラットフォームを推進しており、Mujinはティーチングなしでロボット自身に動作を考えさせる技術をコアに、製造・物流の現場で実稼働を広げている状況です。国内でも、単純なロボット導入から自律判断できるロボットへの移行が始まっています。
出典:日立、現場で学びながら動作を最適化するフィジカルAI技術を開発|ドローンジャーナル
フィジカルAIの導入前に自社との相性の確認が重要
フィジカルAIは、製造や物流、医療、建設など幅広い分野で活用が進んでいます。ただし、他社で成果が出ているからといって、自社でも同じ効果が得られるとは限りません。
導入を検討する際は、まず自社の業務にフィジカルAIが適しているかを確認することが重要です。たとえば、反復作業が多い、危険な作業を人が担っている、人手不足が続いているといった現場では、導入効果を得やすい可能性があります。
一方で、作業内容が頻繁に変わる場合や、設備環境を整えるために大きな投資が必要な場合は、費用対効果が合わないこともあります。まずは自動化したい業務を明確にし、必要な設備や安全対策、導入コストまで含めて検討しましょう。
フィジカルAIは、導入そのものを目的にするのではなく、自社が抱える課題を解決する手段として選ぶことが大切です
まとめ
フィジカルAIは、AIが現実世界を認識し、自ら判断してロボットなどを動かす技術です。製造・物流・建設・医療・自動運転など幅広い分野で活用や実証が進んでおり、ファナックやFoxconn、安川電機、日立製作所、Mujin、CYBERDYNEなど、国内外の企業が具体的な成果を公開しています。
一方、現時点では工場や物流倉庫のように環境を管理しやすい現場で実用化が進みやすく、ヒューマノイドなどの先端領域はPoC段階の事例も多いのが実情です。導入にあたっては、自社の業務に適した用途を見極め、安全性や周辺システムとの連携まで含めて検討することが重要です。
弊社ブライセンのxTECHソリューションでは、AI駆動開発の知見をもとに、フィジカルAIを含む現場のAI活用に関する要件整理から導入支援までをおこなっています。自社の現場に合った活用方法にお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
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